MARTIN DIAZ / マルティン・ディアス EL GOCE

この作品はマルティン・ディアス・クインテットの続編であり、今回はカルテットとしての演奏です。スペインとオランダのジャズ界でトップクラスの実力者で結成されたこのグループは精神分析の世界の様々な概念を基にした演奏をこのアルバム「エル・ゴセ」で行いました。アルバムタイトルと同じく全曲のテーマは「エル・ゴセ」であり、フランスの哲学者、精神科医、精神分析家であるジャック・ラカンの提唱した「繰り返される満足が、不快感に近いものへと変化していく」ことを指した言葉です。作曲・編曲はトラック7のジョニ・ミッチェル「Both Sides Now」をアレンジした「Both Sides of Philly」以外はマルティン・ディアスが担当しています。抽象的な概念を作詞作曲の枠組みとして活用したことで、どこか浮世離れした雰囲気を醸し出しています。静寂の美しさを「BlueHour」で表現し、全3部構成となる「LO SIMBOLICO」、「LO REAL」、「LO IMAGINARIO」では物語のように主体性、現実、想像など言葉や言語では形容しがたいもの、メタファー、欲望、死のような強くネガティブな思考を演奏で具体化しています。聴き手の中にイメージを形作らせることで没入感を与え、精神的にも肉体的にも音楽と深く結びつけます。まさに傑作と言える充足感とフラストレーションを融合させた「エル・ゴセ」というタイトルがふさわしい作品です。